エゴマ

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エゴマ
エゴマ
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : キク上類 Superasterids
階級なし : キク類 Asterids
階級なし : シソ類 Lamiids
: シソ目 Lamiales
: シソ科 Lamiaceae
亜科 : シソ亜科 Nepetoideae
: シソ属 Perilla
: エゴマ P. frutescens
学名
Perilla frutescens (L.) Britton var. frutescens (1894)[1]
シノニム
和名
エゴマ(荏胡麻)
英名
common perilla

エゴマ(荏胡麻[3]学名: Perilla frutescens)はシソ科一年草シソ(青紫蘇)とは同種の変種。東南アジア原産とされる。日本では本州から九州にかけて自然分布し、荒れ地、河原などに生えるが[3]、葉と種実を食用、または実からエゴマ油を採るために栽培される。シソ(青紫蘇)とよく似ており、アジア全域ではシソ系統の品種が好まれる地域、エゴマ系統の品種が好まれる地域、両方が栽培される地域などが見られるが、原産地の東南アジアではシソともエゴマともつかない未分化の品種群が多く見られる。

名称[編集]

古名、漢名は、(え)[3]。名称に「ゴマ」とつくが、ゴマ(ゴマ科ゴマ属)とは別の種の植物である[4]。和名の由来は、小粒のゴマのような種子を食用にするところから「エゴマ」とよばれるようになったものである[3]。なお、荏原、荏田などの地名は、かつて群生地だったころの名残である[3]

地方名にジュウネンがあり、食べると十年長生きできるという謂れから。地方によっては香りの違う群もあり、レモン臭のあるものは「レモンエゴマ」とよばれる[3]

形態[編集]

高さは60 - 100センチメートル (cm) 程度。は四角く、直立し、長い毛が生える。葉は対生につき、長さ7 - 12 cmの広卵形で先がとがる。縁は状にぎざぎざしており、付け根に近い部分は丸い。葉は表面は緑色で、裏面には赤紫色が交る。葉は青ジソにも似ているが、厚くハリがあり、独特の香りがある[5][6]花序は総状花序で、白色の花を多数つける。花冠は長さ4 - 5ミリメートル (mm) 。花弁は4枚で下側の2枚が若干長い。

栽培[編集]

栽培期は4月下旬から8月上旬までの期間で、湿気を好む性質のため乾燥させないように育てる[7]。発芽適温は23 - 25度とされる[7]。シソとは交雑しやすいので、近くにシソを植えないようにする[7]

畑は定植する2 - 3週間ほど前に元肥として堆肥をすき込んでよく耕し、高さ10センチメートル (cm) ほどの畝をつくる。苗づくりのため、育苗箱などに種を筋まきし、双葉が重ならないように間引きながら育て、本葉が出たら良い苗だけを選んで育苗ポットに植え替える[7][5]。本葉が4、5枚ごろになったら畑への植え替え時で、株間50 cmとって定植する[7]。草丈が15 - 20 cmごろになったら、畝間を耕して根に空気を与えるようし、土寄せを行う[8]。成育期間中の追肥は不要といわれている[8]追肥は特に必要ない[5]。乾燥防止のため、株元に刈草などでマルチングをすると良い[5]。葉が10 cmぐらいの大きさになったら収穫適期で、下の葉から1枚ずつ切り取って収穫する[8]

害虫に、ベニフキノメイガの幼虫による食害を受けることがある[8]

利用[編集]

成形図説』より

若葉や種子を食用にする。食材としての主なは、夏(7 - 8月)で、葉は鮮やかな濃緑色で、張りのあるものが市場価値の高い良品とされる[9]。種子の採取時期は秋(9 - 10月ごろ)で、長野県群馬県福島県などの各地でよく食用にされ、栽培も行われている[3]。夏の終わりごろに店頭にも出回るが、全く食べない地域もあり、そういった地方に産するエゴマの種子は香りが悪く、油くさいことが多いといわれる[3]

日本ではインド原産のゴマよりも古くから利用されている。エゴマをはじめとするシソ属種実の検出が縄文時代早期から確認されており、1974年には長野県諏訪市荒神山遺跡から「エゴマ種実」が検出されている[10]。長野県では大石遺跡からもエゴマ種実が出土しており、当初は「アワ類似炭化物」とされていたが、1981年にシソ科のエゴマであると鑑定された。

縄文時代にはクッキー状炭化物からも検出されていることから食用加工されていたと考えられており、栽培植物としての観点から縄文農耕論においても注目されている。奈良時代からは油を採るために栽培が始まったといわれ[9]平安時代にはエゴマ油が食用や燃料に使われていた[7]。中世から鎌倉時代ごろまで、搾油用に広く栽培され、荏原など、地名に「荏」が付く場所の多くは栽培地であったことに由来する。韓国ではポピュラーな野菜であったが、独特な香りになじめず、日本ではあまり一般的ではなかった[9]。しかし、日本国内でも韓国料理の人気が高まるとともに、α-リノレン酸を含むエゴマが持つ栄養価が知られるようになると、日本市場にも出回るようになった[9]

種子[編集]

種子(正確には小型の果実[3])は、ゴマに似た風味を持ち[4]、主に精油用だがゴマの代用にも使える[4]。日本ではゴマと同様に、炒ってからすり鉢で入れて軽くすりつぶし、砂糖や醤油と合わせて和え物のあえ衣に使われる[3][4]。ゴマとは全く異なった風味があり、フキウドなどのエゴマ和えは独特の味わいがある[3]。また小鳥の餌にするほか[3]郷土料理の健康食として見直されている[4]

岐阜県の飛騨地方では、エゴマのことを「あぶらえ」と呼び、味噌に混ぜて五平餅や焼いた餅に付けたり、茹でた青菜や煮たジャガイモにあえて食べるなど、生活に密着して食用されている。

エゴマが比較的多く栽培されている福島県には、じゅうねん味噌やしんごろうかりんとう饅頭など種子を用いた料理・菓子が多く存在するほか、エゴマを餌に混ぜて育てたエゴマ豚の飼育も行われている。

他に、十味唐辛子の成分として加えられる例もある。

エゴマ(100g中)の主な脂肪酸の種類[11]
項目 分量(g)
脂肪 38.79
飽和脂肪酸 3.34
16:0(パルミチン酸 2.3
18:0(ステアリン酸 0.94
一価不飽和脂肪酸 6.61
18:1(オレイン酸)(ω-9脂肪酸) 6.5
多価不飽和脂肪酸 28.83
18:2(リノール酸)(ω-6脂肪酸) 5.1
18:3(α-リノレン酸)(ω-3脂肪酸) 24
エゴマ(100g中)
荏胡麻油
組成
脂肪 100g
脂肪組成
トランス脂肪酸 6-10 g
一価不飽和脂肪酸 12-22 g
多価不飽和脂肪酸 65-86 g
ω-3脂肪酸 52-64 g
ω-6脂肪酸 14 g
特性
熱量 (カロリー)/100g 884 kcal
固体性 (20℃) liquid
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油脂[編集]

エゴマ油 (荏胡麻油Perilla oil ペリラオイル) は種子から絞った油で荏の油(えのあぶら、えのゆ、荏油〈じんゆ〉)ともいわれ、食用に、また乾性油なので防水性を持たせる塗料として油紙番傘油団などに用いられてきた[12]

中世末期に不乾性油の菜種油が普及するまでは日本で植物油と言えばエゴマ油であり、灯火にもこれが主に用いられ、安定的に確保、供給するために油座という組織が作られた。しかし、菜種油の普及と共に次第にエゴマ油の利用は衰退し、乾性油としての特質が不可欠な用途に限られていき、知名度は低くなっていった。しかし、朝鮮などでは、トゥルギルム(들기름)と称して日本よりも一般的に使用されつづけている。

1990年代後半以降、エゴマ油が人体に不可欠な必須脂肪酸であるα-リノレン酸を、他の食用油に比べ類を見ないほど豊富に含んでいることから、健康によい成分を持つことが注目され、再び日本の食品市場に現れるようになった。しかし、エゴマ油の知名度が低かった日本では商品展開上不利と見たのか、「シソ油」の商品名で市販されていることが多かった。このため朝鮮のエゴマ油と日本のシソ油を別の物とする誤解も生まれている[要検証]。これは朝鮮においても同様で、日本のシソ油をチャソオイル(자소 오일)などと称して別の物のように扱う例がある。 食用のエゴマ油は、揚げ物や炒め物などの加熱調理では容易に酸化するため適していないが、癖が少ない風味であり、そのまま飲むか、できあがったさまざまな料理に適量をかけて摂取するのが一般的[独自研究?]

工業用では塗料樹脂の原料、リノリウム、印刷インキポマード、石鹸などの原料として利用される。

なお、2004年には国民生活センターが、また2008年に日本即席食品工業協会スチロール製容器を使用するカップ麺に入れた場合、容器が溶けることがあるとして注意を呼びかけている[13][14][15][16]

[編集]

韓国のミョルチボッサム(カタクチイワシ包み)に使った例

春に摘んだ若い葉は、炒め物焼き肉に使うほか、醤油漬け天ぷらにしたり、茹でておひたしに、香りのよいものはサラダに入れたり、刻んで薬味ドレッシングに入れたりと青ジソのような使い方ができる[3][9][4]。シソ系統の品種群の香りが好まれてきた日本においては、エゴマ特有のペリラケトンの臭いを不快と感じる人が多く、一部の漬物用を除いて、葉を野菜として利用することはほとんどなかった。

しかし、朝鮮料理ではむしろ好まれ、エゴマを野のゴマを意味する「トゥルケ(들깨。野のゴマの意)」と称し、特に香りのよい種類は「ケンニプ(깻잎。ゴマの葉の意)」と称し、サンチュなどと同様にサムギョプサルなどの肉料理と一緒に食べることが多い。や漬けた食品を葉で包むこうした食べ方は、サム()と呼ばれる。エゴマのサムは、特に咸鏡北道咸鏡南道済州道で盛んである[17]

その他、チャンアチ장아찌)と称して、葉を酸っぱい醤油漬けにして食すこともあり、済州道などではこれもサムの食材とする。

近年、福島県などで、若葉を乾燥させ、他の薬草などと茶外茶として利用する例もみられる。

花穂[編集]

8月下旬 - 9月上旬ごろに花穂が出て開花する[8]。開花前の花穂は穂ジソと同様に使える[8]

機能成分[編集]

ビタミンB群ミネラルが豊富で、身体の各組織の働きを正常化にするα-リノレン酸が含まれている[9]。その多くは種子に含まれているが、葉にも生活習慣病の改善効果があるといわれている[9]。エゴマ油には脂肪酸のα-リノレン酸を約60%含んでいて、コレステロール値を下げて、動脈硬化を予防する効果も認められている[4]。葉などには香り成分としてペリラケトンPerilla ketone)やエゴマケトン(Egoma ketone、3-(4-Methyl-1-oxa-3-pentenyl)furan)などの3位置換フラン化合物が含まれ、大量に摂取した反芻動物に対して毒性を示す。香り成分のロスマリン酸は、抗アレルギー作用があるポリフェノールの一種で、花粉症に有効といわれている[9]

変種[編集]

野生の変種にはレモンのような香りのあるレモンエゴマP. frutescens var. citriodora)があるが人間による利用はされていない。ニホンザルはこの種子をよく食べていることが知られている。なお、シソ属の独立種(P. citriodora)として扱われることもある。

広島県の宮島に分布するレモンエゴマは、ここの系統にのみ含まれるエゴマケトンの強い臭気により、ニホンジカの食害を免れている[18]。近縁種のトラノオジソP. hirtella、画像は[1]を参照)も同様の臭気を持つ。

脚注[編集]

  1. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Perilla frutescens (L.) Britton var. frutescens エゴマ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年10月15日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Perilla frutescens (L.) Britton var. japonica (Hassk.) H.Hara エゴマ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年10月15日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m 吉村 2007, p. 116.
  4. ^ a b c d e f g 講談社 2013, p. 112.
  5. ^ a b c d 金子 2012, p. 115.
  6. ^ 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編『かしこく選ぶ・おいしく食べる 野菜まるごと事典』成美堂出版、2012年7月10日、165頁。ISBN 978-4-415-30997-2 
  7. ^ a b c d e f 金子 2011, p. 138.
  8. ^ a b c d e f 金子 2011, p. 139.
  9. ^ a b c d e f g h 主婦の友社 2011, p. 235.
  10. ^ 縄文時代のシソ属種実については、松谷暁子「エゴマ・シソ」『縄文文化の研究2生業』(1983年、雄山閣)
  11. ^ http://fooddb.jp/result/result_top.pl?USER_ID=18345
  12. ^ 林えり子『暮しの昭和史』pp.107-109 海竜社 2009年
  13. ^ 農林水産消費安全技術センター (2004年5月)[リンク切れ]
  14. ^ ニュース|インスタントラーメン ナビ_一般社団法人 日本即席食品工業協会 (2008年10月)[リンク切れ]
  15. ^ メーカー各社が注意喚起する“カップ麺にちょい足ししてはいけないもの” ねとらぼ 2018年09月06日
  16. ^ 主なプラスチックの特性と用途 日本プラスチック工業連盟
  17. ^ 鄭大聲、『朝鮮食物誌―日本とのかかわりを探る―』、pp43-44、1979年、東京、柴田書店
  18. ^ 広島県宮島および対岸の廿日市における シソ近縁野生種レモンエゴマの探索農業生物資源ジーンバンク

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]